行列のできる店には行列ができる

photo by takashi kamide laica M3 summicron 35mm

 

　こんなジョークがあります。

　もうすぐ沈没してしまう豪華客船、女性と子供を先に救命ボートに乗せるために乗務員が男性たちを説得しました。

　イギリス人には「紳士のかたはすすんでそうなさいます」

　アメリカ人には「ヒーローはいつでもそうするものです」

　日本人には「皆様、すべてそうなさっております」

　ようするに英語圏以外の国民を馬鹿にするジョークですね。

　しかし、

「皆様そうなさっておられます」につられてしまうのは、なにも日本人だけでなく全人類、例外なく皆様と同じであろうとするのです。これはもう本能というか、そうする方が生存確率が高くなるので遺伝子に組み込まれてしまっているのです。

　考えてもみてくださいよ。山火事なんかが起きて、動物が一斉に逃げますよね。あれって全部の動物がわかって逃げてるというよりも、中には「何かとんでもないことが起こっているに違いない。こりゃ大変だ！みんなと一緒に逃げなゃきゃー！」と思ってわけもわからず逃げているヤツがいるんですよ。いや、もしかしたらほとんどのヤツがそうなのかもしれませんよ。で、中に馬鹿なヤツがいて「よしオレが確かめてやる」とかいって、反対方向に走って還らぬ命となるんですよ。そうなんです、よけいなこと考えずに皆様と同じ事をしていれば、ほとんどの場合生存確率が上がるんです。

　だから人間の原始的な部分で皆様と同じであることが、よけいなことを考えずに正解を導き出せる．．．と判断するわけですね。

　だから行列のできる店には行列ができるんですよ。これだけ皆様がならんで待っているからには、よほど美味しい店に違いないとと思うのです。

　売れてる商品が良い品、というのはある意味正解である意味錯覚ですね。良いものであるからこそたくさんの人が使っている。でも、たくさんの人に使わせて良いものと思わせることも可能ですよね。

　このやり方でヒット曲は作られました。TV番組やコマーシャルなどとタイアップしてたくさんの人により多くの回数同じ曲を聴いてもらう。ランキング番組に投票してもらい上位にする。

今週の１位の曲はー！

　なんてやられるともうすごい曲なんだな、なんせ１位だもんね、というふうに人は思うわけですね。

　このやり方ももう今ではダメですね。歌番組自体がありませんし、やらせも見えてきました。CD売り上げとかも販売戦略がみえみえだったりするんで、音楽自体がもう実際の曲の良し悪しとは関係ない感じになってますからね。

　ただ、いまだに映画なんかでは本年度観客動員数ナンバー１とかにつられてしまいますね。ついついチェックしたくなります。「XXと雪の女王」が記憶にあたらしいっす。一応見ておかないと、みたいな気にさせられますよね。

　結局のところ人は馬鹿と思われたくないので、一応みんなと同じ事をやっておいた方が無難なのでそっちに流されます。そして自分で考えることをやめます。

　そして最近では作る側のほうまでもが、
　同じようなものを作り始めています。

　結局売りやすいものばかりが大量に作られて、安っぽい飴玉のようなものが大量に作られています。それを美味しそうに頬張っているひとがいます。みんなが食べているから、まあ一口頬張ってみますかね、でもそんな飴玉もいつか消えてなくなってしまうのです。そして、そんな飴玉を頬張っていたことすらみんな忘れてしまうのです。

　ボクにとって音楽とは、個人的な心の対話と思っています。オーディエンスにもそういったものを求めてしまいがちです。それを前提に作っているところがあります。

　もしかしたら、ボクが今作ろうとしているものは、山火事でみんなが逃げている方向と反対のものを作ろうとしているのかもしれない。時代の流れの中で反対方向に走っていく馬鹿者かもしれない。

　でも、何かを作ろうとする者が皆様と同じであってはいけないんですよ。そしてそういう衝動に突き動かされて、今、次のアコーディオンのアルバムの最終構想に入っているところなのです。何とか８月にリリースさせたいと思っています。