カミデのブログ

日夜、創作と修行、音楽製作にあけ暮れる、音楽家の生活

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もうそんなに時間は残されていない

 先日、大阪の寝屋川にある薩摩琵琶の教室の見学に行ってまいりました。以前から日本古来の楽器には興味があったのですが、琵琶に関してはあまりポピュラーでもなく謎の部分が多いので、とりわけ関心がありました。

 はたして、琵琶教室なんて存在するんだろうか?もしかしたら一子相伝とか、難しい世界じゃーないだろうか?山奥の仙人みたいな人に「もし、弟子になりたいんならこの岩の上で何があってもものもいわず〜」とかいって難問をふっかけられるんだろうか?ま、わからないことは、とりあえずネット検索ということで検索しましたところ、薩摩琵琶を教えていらっしゃる先生が寝屋川にいらっしゃるということをアッサリ発見、早速電話をいたしまして、お稽古の見学をお願いいたしました次第です。 

 

 琵琶に関する知識なんてほとんどなく、自分の曲の中でちょっとした「雰囲気作りに使ってやろう」「まぁ1年ほどでマスターできるか」という軽い気持ちで行ったんですよ。教室に到着して、先生自らお出迎えしていただきまして、ぱっと見、仲代達矢と佐川満男を足して2で割ったような個性的な先生、早速、お稽古見学です。

 

 生徒の方、実はもう免許皆伝のベテラン(たぶん70歳代くらいの男性)で、琵琶を弾きながら、詩吟のような唄を歌うわけです。内容は大阪夏の陣で千姫を救出に向かう場面、とても味のある世界観を出しています。

 唄の途中で先生が、「あっ、そこはもっと音を下げたところから出て、こういう感じ、」といって歌い出されました。

 

 先生が歌われた瞬間です。パーンっと空気が変わりました。まるで、タイムトリップしたかのように、大坂夏の陣の世界に行ってしまって、戦火の煙までが漂い始めたんです。凄いです...。名人芸というのを目の当たりにしました。

 

 次の生徒さんは自分と同年代とおぼしき男性、川中島を演じられました。上手いです。で、この方の唄の合間で先生が、「ちょっと平坦かなー、ここはね」っと歌い出したら、合戦の雰囲気、騎乗した武士たちのうごめく姿が目に浮かんできたんですよ。琵琶の音がまたそれを盛り上げます。もう、言葉もありません。ほんとうに芸術です。生徒さんも上手いんですが、先生になるともう上手いとかそんな世界ではなくて、名人芸の域に達しているんですよ。

 この生徒さんに終了後、「もう何年くらい修行なさっているのですか?」とおたずねしたところ、「もう15年になりますねー」っとしみじみ。

 

 次の方のお稽古まで間があるので、先生とお話をすることができました。琵琶の歴史や琵琶奏者はプロや愛好家も含めても、全国に500人程度しかいないとお話をしていただきました。まさに絶滅危惧される伝統芸能です。楽しくお話しさせていただいた後に、お稽古はどうされますか?と尋ねられました。

 

 先生の名人芸の域にはもう感動させていただきましたといお伝えし、お稽古に関してはいったん「保留」させていただくことにして、自分はしばらくオーディエンスとしてこの伝統劇能の世界を鑑賞したいとお伝えしました。あんな名人芸を見て、軽々しく足を踏み入れられる世界ではないと痛感いたしました。

 

 最初の安易な考えでは1年程度、まぁさわりをマスターして...

 

 1年どころか15年、そして名人芸の域に至るには何年かかるやら...。30年?40年?....50年?....生きてる?...

 

 そう、僕には、もうそんなに時間は残されていないんですよ。

 

 その時間を自分の音楽の表現に費やさないといけないのです。技術的なものを獲得するのに必要な実質的時間を、他に割く余裕はないのです。感性的な刺激ならオーディエンスで充分なのです。

 

 名人芸を目の当たりにして、中途半端なことはできませんよね。自分の世界で自分が目指すべきところへ向かうことの方が、どれだけ大切か思い知りました。今はあの空気感を自分の演奏で出せないか模索中です。

 たとえばアコーディオンとかジャズとかそういうものに何の予備知識もない人に、自分の世界観を伝えるような音楽を届けることができれば、そのため必要な「感性を磨くこと」と、それを「表現するための技術を磨く」ことは、自分に残された時間に費やす最大の課題なのです。

 

 そして「ほんもの」にふれる時間をより多く持つことが、どれほど大切か知りました。あのレッスン見学の後、練習における集中力がとても高まりました。あのときの空気感を思い浮かべることで、いままで感じなかった音の動きやフレーズの生命力が鮮やかに見えだしたのです。

 

 私たちはもっと日本古来の音の世界にも目を向けてみるだと思います。学校教育や普段耳にすることの多い、西洋音楽とは全く異なる表現や技術でありますが、日本人の芯の部分に共感するものが存在します。芯に響くものに触れることで感性が整えられると思います。

 

 ちなみに、この月末には文楽劇場へ、この先生の薩摩琵琶の演奏を聞きに行く予定です。

5月13日、ピアノアルバム 2タイトル同時発売です!!!